発掘調査員の人口動態(2011年段階)

われわれは未来について、次の二つのことしか知らない。

  1. 未来を知ることはできない。
  2. 未来は、今日存在しているものや、今日予測しているものとは違う。

この公理は、とくに新しいものでも驚くべきものでもない。しかし、次のような極めて重大な意味をもつ。

  1. 今日の行動の基礎に、未来に発生する事象の予測を据えても無駄である。せいぜい望みうることは、すでに発生してしまった事象の未来における影響を見通すことだけである。
  2. 未来は今日とはちがうものであり、かつ予測のできないものであるがゆえに、逆に予測せざることや予期せざることを起こさせることが可能である。

もちろん、未来に何かを起こさせることには、リスクが伴う。しかしそれは、合理的な行動である。何も変わらないという居心地のよい仮定に安住したり、起こるに違いないことや、最もおこりそうなことについての予測に従っているよりも、かえってリスクは小さい。

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社会的、経済的、文化的な大きな出来事と、そのもたらす影響との間には、時間差がある。出生率の急増や急減が、労働人口の大きさに影響をもたらすには、15年から20年を要する。しかし、変化はすでに起こっている。

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すでに起こった未来は、体系的に見つけることができる。まず第一に調べるべき領域は、人口である。人口の変化は、労働力、市場、社会的圧力、経済的機会の変化にとって最も基本的である。

人口の変化は、通常、最も逆転しにくい。しかも、その変化は、非常に早くその影響を現す。出生率の上昇が、小学校の施設に対する圧力となって現れるのは、わずか五、六年後である。そして本当にそれは起こる。その影響も予測しやすい。

ピーター・ドラッカー『創造する経営者』

 

以下の文は、5年前の震災の年、上記ドラッカーの一文を念頭に記した、あるレポートの一部である。

はじめに

文化庁統計によれば、埋文専門職員の総数は、2000(平成12)年の7,111人をピークに減少に転じ、2012(平成24)年には5,868人まで数を減らした。毎年100名ずつ、12年間で1,200人余、2割近く累減した計算となる。この傾向が続けば、オリンピック開催の2020年には、専門職員数は5,000人近くまで減少する見通しとなる。

いっぽう、発掘調査も、1997(平成9)年の総費用1,321億円をピークに減少に転じ、2012(平成24)年には524億円と盛期の40%まで下落した。しかし、震災復興、アベノミクス、オリンピック特需などの影響で、ピーク時ほどではないにせよ、少なくとも今後数年の間は、必要とされる発掘調査の総量が、増加傾向に転ずると予測される。

ところが、発掘調査を担う専門職の総数を短期間で増員することは難しい。そのため、遠からずして発掘調査員の不足が顕在化し、遺跡の調査が開発のスピードに追いつかないという事態が、とくに開発・再開発の進む地域で生じる可能性が濃厚である。

問題は、その際、調査員不足がどの程度まで深刻になるかである。そこで以下、データが公開されている2007(平成19)年度の文化庁統計を主な材料に、発掘調査員の人口動態を検討してみる。右下のグラフは年齢層ごとに、各職位の数を集計したものである。

1.若年層の減少と非正規化

就職氷河期以降の世相を反映し、埋文専門職でも雇用の急激な減少、非正規職化が進んでいる。若い世代では県職・市職ともに、雇用の絶多数が上の世代に比べて半減、ないしそれ以下となり、しかもその大半が非正規の嘱託職員で占められるようになった。その多くが、35歳を境に埋文の世界に見切りをつけ、他の一般的な職業を求めて去って行く。

同じ専門職にカウントされていても、非正規職と正職との身分差・待遇差は顕著である。とくに都道府県の埋文センタ-では、作業員以下の極端な低賃金で、調査「補助員」という名の下働きとして便利使いされるのが一般的である。ひとりの独立した調査員として、一貫した体系的な教育訓練を受けることもあまり望めない。このことが、若手人材が独り立ちした一人前の調査員として育ちにくい、一つの要因となっている。

このようにして、おおむね35歳までで使い捨てにされる非正規職の穴を埋めるのが、余剰教員層である。専門知識のない教員が、正職として調査を主導し、考古学を専攻した非正規の調査補助員が、その下働きに甘んずるという、専門性の逆転現象が生じることも珍しくない。こうした事態も、若手人材が調査員として成長する妨げとなっている。なお、発掘に投入される教員の中には、考古学を専攻した研究者も含まれるが、人口動態に影響を与えるほどの数ではない。

2.主力となるバブル世代

現在の埋文専門職員の最多数を占めるのが、いわゆるバブル世代である。経済バブルと発掘バブルにはタイムラグがあり(バブル後の公共投資のため)、後者は1990年代後半まで続いた。このため、埋文界におけるバブル世代の年齢構成には、かなりの幅がある。グラフの30代後半~40代、現在の40代~50代前半が、おおむねバブル世代に当たる。考古学協会総会の入口に各地の教育長が並んで、教授たちに専門職の斡旋を哀願した時代に採用された世代である。

具体的な数字を示すと、1989(平成元)年~1994年の5年間の間に、54大学を卒業した2339人のうち555人(24%)、34大学院を修了した347人のうち133人(36%)、合計2713人中608人(25%)が自治体に採用されている。

要するに、考古学専攻生でありさえすれば、誰でも専門職に就職できた。このため、この世代では個人的な能力差が顕著である。発掘調査の教育訓練をほとんど受けたことのない「専門職」が、この世代のかなりの割合を占めている。団塊の世代は既に退職し、しらけ世代層も退職していくなかで、このバブル世代が、埋文行政の中核を担いつつある。

3.大学の教育能力の低下

埋文業界は、統計データに現れない問題も抱えている。さまざまな理由で、発掘調査実習のない大学が大半になったからである。発掘実習で学生を現場で訓練して送り出しているのは、阪大やその系列下の大学など、ごく一部に限られるようになった。このため、若い専門職の多くが、畳の上の水練のみで、発掘現場に投入されている。しかも、その指導教育に当たるのが、先のバブル世代である。発掘調査員は、員数的な再生産が難しいばかりではなく、質的な再生産も危機的な状況に入っている。

統計を取っている以上、文化庁もこの事態を認識しているはずだが(職位別年齢構成のデータを公表しなくなったのはその表れか?)、「各自治体は専門職の採用を増やすべきだ」という一般論を表明しているだけで、具体的にそれをどう実現していくかという方策については、全く何も打ち出していない。いっぽう、大学教員にいたっては、こうした問題に関心が薄い。

4.民間から行政への人材流出

発掘調査員の人口構成は、この数十年間の流れのなかで生み出されてきたものなので、短時日でこれを変化させることは難しい。今後、必要とされる発掘調査の量が増加傾向に転ずれば、調査員の絶対数が急に不足することは目に見えている。いっぽう文化庁にこの問題を解決する積極的な意志があるようには見えない。したがって、遠からず調査員の奪い合いが起き、民間調査機関にとって深刻な事態が生じる。なぜなら、若くて優秀な人材から順に、行政機関に奪われていく可能性が高いからである。行政は遠慮なく民間の人材を引き抜くであろうし、文化庁も、大学も、それを喜ぶことはあっても、悲しむことはないにちがいない。

発掘調査要員の確保は、すでに多くの発掘調査企業にとって大きな課題となっているが、遠からず事態はさらに深刻化する。そう予測した方が懸命である。問題が顕在化する前に、何らかの手を打っておく必要がある。

とはいえ、どんな準備をしたにしても、行政と正面切って人材を奪い合うなら、民間企業に勝ち目はない。そうではなく、遺跡の緊急発掘というすでに定着した社会システムが、調査員の不足のために機能不全を起こさずに済む、民間企業ならではの知恵を提示し、産官学が手を携えて問題解決に当たっていくための契機とすべきである。まちがいなく予測される発掘調査員の不足を、民間企業にとっての好機に転ずるのである。

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