関東圏の埋文市場(平成23〜25年度)

 

以下は三年ほど前に、誰でも入手できる公開資料をもとに個人的に分析してみた、関東圏における埋蔵文化財調査市場の動向をまとめたものである。三年後の現在では、市場から離脱したり廃業してしまった企業もある。三年前の見通しは、どの程度的を射ていただろうか。

1.市場占有率

全国

 公益社団法人日本文化財保護協会が平成23年にWeb Siteに公開した資料に基づくと、支援業務を含む発掘関連企業は全国で80社が加盟しており、その総売上は年間160億円という。報告漏れの売り上げや、同協会に未加盟の組織を含めても、発掘調査関連市場は、200億円程度の規模とみてよいだろう。市場規模としては、ぬいぐるみ(192億円)やトマトケチャップ(187億円)、ゴスロリ(200億円)などと同程度のニッチな市場で、マヨネーズ(1000億円)や豊胸術(855億円)、麻雀(522億円)には遠く及ばない。ちなみに建設業の市場規模は52兆円であるから、計算を間違えていなければ、その0.04%ということになる。

 市場占有率を上位から見ると、安西工業(20億・市場占有率12%)・国際文化財(15億 9%)・パスコ(9億 5%)・ 大成エンジニアリング(8億 5%)・ 島田組(8億 5%)と続き、上位12社で売上の三分の2を占めることがわかる。売上高は平均2億円だが、これを超える企業は四分の一の20社に過ぎない。規模は格段に小さいが、市場構造はゼネコン業界に似ているといってよいだろう。

関東圏

 上記協会の平成25年資料などによれば、支援業務を除く関東圏の発掘調査市場を概観すると、総売上は年間40億円前後で、玉川文化財研究所(5億/関東圏占有率14%)と毛野考古学研究所(3.5億/10%)の2社が抜けだしている他は、2億円前後の企業が10社余り頭を並べている。なお国際文化財やパスコなど、全国展開している企業については推定による。

玉川文化財研究所のトップは、周知のように、神奈川の強固な地盤による。毛野考古学研究所は、最近まで2億円前後の「どんぐりの背比べグループ」に属していたが、短期間で着実に売上を伸ばし、それから一歩抜けだした。どこで、どのようにして売上を伸ばしたのか、注目すべき企業である。

2.市場の地域性

 文化庁統計(平成23年度)に拠れば、民間開発市場として規模が大きいのは、東京・千葉・神奈川の3都県で、合わせて20億円余となる。民間発注される茨城県の市町村公共事業も3億円規模の市場である。これら4都県が差し当たって大きな市場となっている。

支援業務を除く東京の民間市場(便宜上JR等を含める)は、概ね10億円規模(平成23年度)で、原因者には大企業の比率が高い(4億/4割)。首位テイケイトレードの市場占有率は25%程度、四門がこれに続き20%前後である。いずれも本業への信用を都内のシェアに繋げていると考えてよいだろう。武蔵文化財研究所・加藤建設など古参企業も強く、新たに参入を図る企業もある。市場の動向は流動的で予断を許さない。

千葉の民間市場は5~6億円で、原因者には大企業の占める割合が高く(2億/4割)、平均額が大きいのが特徴である(1件あたりの調査費用の平均額は、千葉2000万円、東京900万円、神奈川700万円)。

千葉および茨城市場の最大の特徴は、単価の低さである。このため、一部の業者以外は参入が難しい。逆に言えば、この地域の厳しい価格競争に耐えられる生産性を有する企業は、他の地域でも優位に立てる。毛野考古学研究所が売上を伸ばしている理由もそこにある。

3.各社の生産性の比較

いくつかの指標から、関東圏の発掘調査企業の生産性を比較する。

1人当り売上額

 支援業務を含めた、社員1名当りの売上額を関東圏の企業に限って比較すると、上位からテイケイトレード(3,000万円/人)・国際文化財(2,400万円/人)・大成エンジニアリング(2,000万円/人)となる。これに続いて1,500万円/人前後の企業が10社ほど並ぶ。なお極端に低い額の企業に関しては実際の数字を報告していない可能性がある。

テイケイトレードの一人当り売上額が大きいのは、規律の厳しい企業風土に加えて、5S活動などモノづくりの知恵を取り入れた、一連のカイゼンの結果と考えられる。

毛野考古学研究所の1人当り売上額がやや低めであることは注目される。この数値を見る限り、生産性はそれほど高くはないことになる。

1人当り調査面積

 1人当り調査面積を比較すると、千葉・茨城の小さな企業が物凄い数字を出していることが分かる。きわめて生産性が高い、ということになるが、それ以上のことは、ここでは述べないでおこう。いっぽう、数字を確かめられなかった千葉県の勾玉工房を除くと、都内の四門が関東圏で最下位となる。江戸期を掘ることが多いことを差し引いても、著しく生産性が低いことになる。調査対象がほぼ重なるテイケイトレードが、四門の倍の面積を掘ることと比較すれば、それは明白である。生産性の低さを営業力でカバーしていると判断してよいだろう。

現状では、従業員1名あり500平米前後というのが、調査業界の平均値である。毛野もそれに近い。なお関東圏に関するデータの無い国際・パスコは比較対象から除いた。

質を落とすことなく、むしろ精度を高めつつ、調査員1人当り調査面積を増大させていくことが、この市場の勝者となるための鍵のひとつとなることは間違いない。

総資本回転率

 資本力のない企業は極端に総資本回転率が高い。効率が良いからではなく、自転車操業を要求されるからである。この業界の大半の企業にいえることであるが、関東圏で占有率を誇る企業のなかにも、キャッシュフローの面では脆弱性を抱えているところが少なくない。これに対して、キャッシュフロー面で力があるのは、パスコとテイケイトレードである(パスコは大手測量会社として他の発掘調査会社とは文字通り桁違いの資本金を有しており、テイケイトレードが所属する帝国警備グループは、日雇い労働者への支払いのため常に大量の現金を保有している)。

4.毛野考古学研究所をめぐる分析

毛野考古学研究所は、今はなき山武考古学研究所から派生した、群馬に本社のある発掘会社である。既に述べたように、目覚ましいといってよい成長ぶりを示しており、今後もそれはしばらく続くであろう。同業者は学ぶべき点が多い。以下、その強みと限界を整理してみる。

強み

  • 前の職場で業界の裏表を知り尽くしたトップが、周到な陣頭指揮を取っている。
  • 発掘調査の質とスピードは、調査員の個人的能力に一義的に規定されてしまうのが現状だが、トップが優秀な調査員を見定めて採用し、最適な現場に配置している。調査員の教育にも力を注ぎ、日々その能力に磨きをかけている。
  • 発掘ができれば本望という調査員を、高給とはいえずとも人生設計できる賃金で安定的に雇用し、発掘や考古学をめぐる価値観を共有して、巧みに組織化している。
  • 地方都市の(とはいえ都心にすぐ出られる)郊外に作業所を設け、固定費と作業員人件費を抑えている。地方なら調査員たちも経済的に生活しやすい。
  • トップが、埴輪研究者として学界に広いつながりを持ち、学問的に信用されている。
  • ○○と異なり、基本的にアコギな商売はしない。この点でも信用されている。
  • 厳しい価格競争に耐えられる体制を巧みに組織し地方展開している。

限界

  • キャッシュフロー面で、にわかには企業規模を拡大できないだろう(時間の問題だが)。
  • あくまでも古いタイプの考古学と発掘調査に立脚している(それが強みでもある)。
  • 地方都市への居住(現場は別として)を嫌う研究者には向かないかもしれない。

5.若干の所見

支援業務を除く埋蔵文化財調査市場の、関東圏における規模は、現状では40億円前後であるが、オリンピックを控え拡大するとみられる。

民間とくに大企業やJRなどの大組織に関わる案件では、発掘調査会社の信用が非常に重要になる。その点が、四門やテイケイトレードなどの強みであり、都内では一歩先んじてきた。ただし、パスコや国際文化財などの大企業やその傘下の企業も、その気になればそれ以上の強さを発揮できる。競合他社が増えれば、やはり金額がものをいうことになるだろう。どの企業も、発掘調査の質とスピードを、今以上に要求されることになるに違いない。毛野考古学研究所や玉考古学研究所などが、強みとする古典的で確実な発掘調査の力で市場専有率を維持し拡大していくのか、それとも測量会社や建設会社が、本来のコア技術を柱に、近代的なプロジェクト型発掘調査の仕組みを構築してこれに対抗していくのかいけるのか。埋蔵文化財行政が、それとどう関わっていくのか。発掘調査民営化の真価が問われていくことになるだろう。

 

 

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