貧乏考古学徒のための情報システム術

*********だいぶ前に書いた雑文を再掲載、第1回で終わっている

第1回 究めよコピー道

知人の角さん(仮名)は、知る人ぞ知る複写機の使い手である。

雨にも負けず 風にも負けず 
雪にも夏の暑さにも負けず
未知なる資料を探しては
いつも静かにコピーしている
そんな人に私はなりたい

かどうか知らないが、「究めよコピー道」が角さんの持論であり、日常生活の規範(?)である。

たまに休みが取れると列車を乗り継いで遠方の埋文センターの書庫に入れてもらう。時間が許す限り、終日、ただひたすらページをめくっては、集落出土の武器・武具・馬具を探し求めてコピーする。朝も早めに出勤して、最近届いた文献にひたすら目を通し、新たな資料を見つければコピーする。

まさに藁山の中の針を探し出すような苦労を、それも幾山も重ねて、コツコツと資料を蓄積していく。そうやって資料を集め検討して、さらに実物に当たる必要が出てくれば、貴重な休暇をさらにやり繰りして、実見してくる。そして、集めた虎の子のような資料と資料とをつなぎ合わせて新たな事実を洗い出す。それが、角さんのコピー道である。

実は、私は「鉸具造りの轡」に関しては、おおむね七世紀の間に消滅してしまうのだろうと思っていた。ところが、角さんの膨大な住居址出土資料の前に、その単なる思い込みは破壊されてしまった。類例は少ないが、なんと11世紀になっても、大きさはともかく、形態的には古墳時代と変わりない轡が使われているのだ。ガーンである。こういう地道な積み重ねには敵わない。コピー道の勝利である。

角さんがどのくらい膨大な資料に目を通しているか、例えば古代の鉄鏃の分析を試みたその論文に掲載された引用文献の列を見れば、大抵の研究者は驚き呆れるはずだ(もうとっくに角さんが誰だか分かった人が多いと思うけれど…ちと仮名が見え見えだったかも)。

さて、私は最近その角さんと一緒に七世紀の武器・武具・馬具を考えるシンポジウムを準備している。我々、古墳時代の軍装研究者は、五・六世紀から七世紀へと下降して、その画期をたどる。逆に角さんは、古代から七世紀へと武器や甲冑や馬具の生産と流通の画期を遡る。両者の分析を、七世紀で交差させようという試みだ。古墳時代が考古学、古代が文献史学、という組み合わせは多いが、どちらも考古学的視点から、という試みはあまり例がないにちがいない。

角さんの議論は、とにかく押さえている資料の蓄積がものすごいから、きわめて実証的で面白い。私のように、蓄積の乏しさを思いつきでごまかそうとする小賢しい議論とはわけが違う。話を聞いているだけで楽しい。・・・酔っぱらった角さんは、それはまた愉快であるが。

ところで、ここからが本題である。

角さんの情報処理システムの三種の神器はコピー機・電話・ファックスである。最近のコピー機は複雑で使いにくいという。パソコンも使うけれど、実質ワープロ専用機である。文書のやり取りは、一度紙にプリントアウトしたものをファックスで送受信する。アドレスはあるが、メールは基本的に使わない(使えない)。

したがって、角さんとの情報のやり取りは結構しんどい。例会の資料も紙になってしまっているから、その内容を次の会のための文書に反映させようとすれば、いちいち入力しなおさなければならない。それに、私は整理が苦手だから、紙の資料だと、たいていどこかに行ってしまって、探すのが大変だ。「角さんメールを使えるようにして」というのが私の切なる願いである。「メールを受信できるようにして」というのは、角さんだけじゃなくて、他の一部(けっこう多い)の研究会メンバーも同じだ。ファックスじゃないとだめとか、文書を送れとか、めんどうくさーい!

以上、前置きが目茶苦茶に長くなったけれど、私が考える「考古学の情報化」のターゲット、その典型的なモデルとなるのが角さんだ。角さんのような、考古学研究者としては極めて優秀であるが、しかし情報化ということに関して言えば、少なくとも須恵器一型式分は遅れている、しかも当人はそれで困っているわけでは全くないという人たち(もちろん周りは大いに困る)。そうした研究仲間と、どうやって情報の共有を実現していくか、それが私の大きな現実的課題である。

最終的には、角さんにもXMLやGISなどについても理解し、多少はその使い手になってもらいたい。しかし、例えばまずはメールを使ってもらえるようにするのが実際的な出発点である。中核的考古学研究者の情報リテラシーを現実具体的にどう改善するか、そこから議論を始めないといけないと思う。

先に、「考古学最強の情報機器、乾式複写機を考える(改訂版)」と題する雑文をアップしたのも、そのような意図に基づくもっであったのだが、そのことがあまりうまく伝わらなかったと思う。何というか、意図せざるところで、話がすれ違ってしまった。そこで、今回から角さんという研究者にモデルになってもらい、その情報武装を考える、という形で考古学研究者の日常生活のための情報処理システムについて考えていくことにしたい。今回はその第一回目である。

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